クール   北野勇作


 この下にはね、キンキンに冷えたクールなあれが埋まってる。そうそう、あわてて覆い隠したの。あの夏は暑かったよね。それに湿気も酷かった。そのせいで腐ったんだ、なあんて声もあるけど、まあ前から腐ってたから。
 暑さのせいにしてもいいのは、臭いくらいだね。うん、そりゃもうすごかった。さすがにあそこまで臭うと、腐ってない、なんて言い張ることもできないよ。
 でもそこはほら、腐ってもなんとか、ってことでいちおう歩かせてはみたんだよ。それが目玉なんだし、やっぱりお披露目はしないとね。でも、がんばっても歩いてもせいぜい五十歩百歩ってとこでさ、そこへたちまちハゲタカとか群がって。いや、あいつら、なんでも食うんだねえ。ダメこりゃ、ってことであわてて箱物に押し込んで、そのまま冷やして埋めたわけ。それで一件落着かと思いきや、これだよ。出たい、出たい、ってうるさいんだ。春だから? うーん、箱の中は冷えてるはずなんだけどね。どうなってるのかな。じつはもう、クールでもなかったりしてね。今のところはイヤホンでもして聞こえないふりすればいいんだけどさ。
 でも、このまま夏が来て声がもっとでかくなると、そうもいかなくなるんだろうね、きっと。





北野勇作
SFとか書いてます。

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